JP Morgan Chase銀行からの電信送金についてのお知らせ 和訳および英語原文


さきほど、Chase銀行から電信送金についてのお知らせがオンライン口座サイトのメッセージとして送信されたというメールが来たので、その内容を公表する。

下記のサイトなどから、米国外への電信送金の妨害が憶測されている。

実際のメッセージ内容からは、全ての送金ができなくなるのではないようだ。しかし、念のために、カスタマーサービスに電話で問い合わせた。確実に情報を得るために、コールセンターのマネージャーと話をさせてもらった。

まず、用語の定義を聞いた。
「将来の日付け(future-dated)での電信送金」は、例えば、某月某日に特定の口座への送金を予定するということで、一度限りの場合もあるし、繰り返す場合もある。
「繰り返して(repeated)の電信送金」は、一定額を定期的に送金するということ。

結論から言うと、米国外への個人口座からの電信送金は、2013年9月22日以降でも可能。ただ、依頼したその当日に送金しなければいけない。

なぜ、将来の日付けや繰り返しての電信送金が個人口座から米国外へできなくなるのかと聞くと、それは詐欺などを防止して顧客の口座の安全を確保するためだ、と言う返事だった。何か隠された意図があるのかどうかは、個人の判断に任せたい。


和訳

日時:2013年8月28日17時16分4秒
差出人:Chaseオンライン
題名:キャンセル条件を含む、電信送金サービス同意条件変更

2013年9月22日付けで、電子送金サービスを変更します。
変更内容は次のようになります。
  • 個人口座(主に個人、家族または世帯が使用する目的の預金口座)から米国外への電信送金は、依頼後30分以内であれば、その電子送金を特定する情報が提示される限り、キャンセルできます。
  • 将来の日付けでの、または繰り返しての電信送金をキャンセルしたい場合、指定の送信日の前日の東海岸時刻11:59pmまでならオンラインでキャンセルできます。もしもっ電信送金サービスにアクセスできない場合は、指定の送信日の前日の東海岸時刻11:59pmまでにカスタマー・サービスに電話(1-877-242-7372)をすれば、将来の日付けでの、または繰り返しての電信送金をキャンセルできます。
  • 個人口座限定:2013年9月22日より、米国外へのどの受取人へも、将来の日付けでの、または繰り返しての電信送金をスケジュールすることができなくなります。



電信送金サービス同意条件の内容を、上記のように変更しました。電信送金サービスをご利用し続けて頂くということは、この新しい契約条件に同意することになります。変更された同意条件は、2013年9月22日付けでオンラインにアップされます。変更された同意条件を閲覧するには、Chase Onlineサイトにログオンした後、どのページからでも、一番下の「法的同意と開示」をクリックして下さい。
ご質問があれば、1-877-CHASEPC (1-877-242-7372) までお電話をお願いします。



英語原文
Date:
08-28-2013 17:16:04


From:
Chase Online


Subject:
Wire Transfer Service Agreement Changes, Including Cancellation Policies



We're making updates to our Wire Transfer service effective September 22, 2013.
Here's what's changing:
  • You may cancel a Wire Transfer sent to a recipient outside the United States from a Personal Account (a deposit account used primarily for personal, family or household purposes) up to 30 minutes after you give us instructions, as long as you provide us with enough information to identify the Wire Transfer you want canceled.
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  • For Personal Accounts only: Starting September 22, 2013, you won't be able to schedule future-dated or repeating Wire Transfer to any recipient outside the United States.
We've updated the Wire Transfer Service Agreement to reflect these changes. You agree to these new terms and conditions by continuing to use the Wire Transfer service. The updated agreement will be available online September 22, 2013. To review the updated agreement, click "Legal Agreements and Disclosures" at the bottom of any page after you log on to Chase Online.
If you have questions, please call us at 1-877-CHASEPC
(1-877-242-7372).
LC-WT101

テルル132の甲状腺被ばく線量への寄与について


2013年1月に発表された下記の英語論文「福島第一原子力発電所の避難区域に置き去りにされた 牛における人工放射性核種の分布」内で、テルル132についての興味深い記述があった。

Distribution of Artificial Radionuclides in Abandoned Cattle in the Evacuation Zone of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant
英文 
ウシの体内での放射性セシウムの分布 〜 福島県東部に生息する『のら牛』の場合 〜
和文 

英文の抜粋和訳 

該当箇所引用
”After the FNPP accident, a large amount of 132Te was released into the environment. At first a higher activity concentration of 132Te than 129mTe was detected in the soil of the evacuation zone [7]. The deposition of 129mTe in the kidney suggests that radioactive 132Te also accumulated in the kidney shortly after the FNPP accident. The half-life of 132Te is 3.2 days and its decay product is radioactive 132I, which is thyroid tropic. A previous study reported that radioactive tellurium that is orally administered to cows concentrates in the thyroid more than in most other tissues [19]. These results suggest that we need to pay more attention to 132Te as well as 131I in assessing health risk to the thyroid.”

該当箇所和訳
「原発事故後、大量のテルル132が大気に放出された。最初はテルル129mよりも多くのテルル132が避難区域の土壌で見つかった。テルル129mが腎臓に蓄積されると言う事は、福島原発事故直後に、テルル132もまた腎臓に蓄積した事を示唆する。テルル132の半減期は3.2日で甲状腺に向性を持つ放射性ヨウ素132(半減期2.3時間)に崩壊する。別の研究では、牛に経口投与された放射性テルルが、どの組織よりも甲状腺に多く蓄積したと報告されている。これらの結果は、ヨウ素131と同じくテルル132も甲状腺への健康被害リスクの評価で考慮されるべきだと言う事を示唆する。」

CTBT高崎観測所のデータを見ると、確かにテルル132の放出量もヨウ素132の放出量もかなりのものだった。



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上記の論文で言及されている「別の研究」を検索してみたが、見つかったのは牛での研究ではなく羊での研究だった。このアブストラクト内でも「乳牛」での研究が言及されているが、見つからなかった。

METABOLISM OF Te132-I132 IN LACTATING SHEEP
泌乳羊におけるTe132-I132の代謝(英語アブストラクトのみ)
(米国エネルギー省科学事務所のデータベースの1963年論文 )

アブストラクト和訳
「泌乳羊に、少量のTe131-I131を含むTe132-I132が一回経口投与された。羊乳における濃度が、経口摂取後最初の4日間に測定された。どの24時間単位においても、羊乳に分泌されたのは、投与されたTe132の0.2%以下だった。乳牛の場合だと、摂取後最初の6日間で投与量の0.5%が分泌されたと報告されている。羊乳における最高濃度は、投与後24〜36時間後に見られ、その後はTe132濃度は、約1日の半減期により減少した。血漿濃度は、どの調査期間でも、羊乳の濃度と大体同じだった。羊乳の搾乳時には、I132の濃度が高かったが、崩壊度が早い(半減期2.2時間)ために、搾乳後24時間での濃度はTe132の量に依存した。羊乳内のI131とTe132の比率は、投与後1日で120から??(訳者注:原文で文章の一部が欠損している模様)と様々だった。Te132投与後の48時間、72時間と96時間に安楽死させた雌羊で、主要組織におけるTe132が検査された。48時間での最大濃度は、甲状腺、腎臓と肝臓で見つかり、それぞれ、1グラムにつき、投与量の0.006%、0.0014%、0.004%だった。これらの結果および乳牛での研究から、Te132-I132は、泌乳動物が草を食べる牧草地での汚染が起こったとしても、人間にとって大きな危険を及ぼさないようであると言える。」

考察
「泌乳動物が草を食べる牧草地での汚染が起こったとしても、人間にとって大きな危険を及ぼさないようである」というのは、牛乳や羊乳に放射性テルルの汚染があったとしても、それを飲む人間には大きな危険がないだろう、という意味だと思うが、本当にそうだろうか。この1963年の研究が行なわれた場所は米国ワシントン州リッチランド市で、ハンフォード核施設がある街。そして研究機関は、ゼネラル・エレクトリック社。ハンフォードでは、様々な「実験」が行なわれた。少なくともこの研究では、テルル132が羊の体内では甲状腺に最も多く分布されたのが分かる。

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下記の論文「子供時代におけるI131への被ばく後の甲状腺癌のリスク」は、チェルノブイリ事故後の甲状腺癌についての論文で、山下俊一氏が「改ざん」したグラフが知られている。(参考:山下俊一は、なぜグラフを改ざんしたのか? http://fukushimavoice2.blogspot.com/2013/06/blog-post_3.html

Risk of Thyroid Cancer After Exposure to 131 I in Childhood
http://jnci.oxfordjournals.org/content/97/10/724.full.pdf

この論文内で用いられた推計被ばく線量についての論文に興味深い記述があったので、アブストラクトと該当部分を和訳した。

Reconstruction of Radiation Doses in a Case-control Study of Thyroid Cancer Following the Chernobyl Accident
チェルノブイリ事故後の甲状腺癌のケースコントロール調査における、放射線被ばく線量再構築
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2885044/pdf/nihms-172848.pdf

アブストラクト和訳
チェルノブイリ事故のフォールアウトに子供時代およびティーンエイジャー時代に被ばくした人達においての、甲状腺癌の集団ベースのケースコントロール調査が、ベラルーシとロシアの汚染区域で行なわれた。調査対象者それぞれにつき、個人の甲状腺被ばく線量は、次のような被ばく経路に基づいて再構築された。
(1)吸入と飲食によるI131の取り込み
(2)吸入と飲食による短期寿命核種の放射性ヨウ素(I132、I133、I135)と放射性テ
ルル(Te131m、Te132)の取り込み
(3)地面に沈着した放射性物質による外部被ばく
(4)Cs134とCs137の飲食による摂取

特定の年齢グループの集団の平均被ばく線量および個人被ばく線量の再構築に使われたモデルが、一連の相互比較により確証された。全要因に起因する、調査対象者の平均甲状腺被ばく線量は、ベラルーシとロシアでそれぞれ0.37と0.034Gyと推計された。調査対象者の中での最大個人甲状腺被ばく線量は、ベラルーシで10.2Gy、ロシアで5.3Gyだった。I131の取り込みが、主な甲状腺被ばく経路だった。短期寿命核種の放射性ヨウ素と放射性テルルによる推計被ばく線量は、0.53Gyが最大だった。再構築された個人甲状腺被ばく線量では、外部被ばく線量は0.1Gy以下、セシウムの飲食による取り込みによる内部被ばく線量は0.05Gy以下だった。再構築された個人甲状腺被ばく線量の、幾何標準偏差に特徴づけられた不確かさは、1.7から4.0で、平均は2.2だった。

短期寿命核種の放射性ヨウ素(I132、I133、I135)と短期寿命核種の放射性テルル(Te131m、Te132)由来の甲状腺被ばく線量再構築
原子炉は、半減期が1時間から1日の短期寿命核種の放射性ヨウ素を多く生成する。環境内および人体での動態はI131と同じである。また、放射性ヨウ素の親核種である放射性テルルも考慮されるべきである。これらのうち、5つの短期寿命核種の放射性ヨウ素と放射性テルル(I132、I133、I135、Te131m、Te132)だけが、集団の甲状腺被ばく線量に実質的に寄与し得る。

チェルノブイリ原子力発電所の近くのプリピャチ市は、被ばくした集団においての短期寿命核種が生体内で測定された唯一の集落である(Balonov他 2003)。被ばくが吸入のみで、原子炉の爆発後の1日半以内に避難した前だけに限られたので、短期寿命核種の甲状腺被ばく線量への寄与は、この集団の中で、事故後最初の1日半に甲状腺への取り込みを防ぐヨウ化カリウムを摂取しなかった人達では30%だった(Balonov他 2003)。プリピャチとの類推により、チェルノブイリ原子力発電所の30km圏内から事故後間もなく避難し、吸入のみによって被ばくした人達における甲状腺被ばく線量全体への短期寿命核種の寄与も、同様だと思われる。ロシアの集落の住民の甲状腺被ばく線量への短期寿命核種の寄与は小さいと推計される。放射能汚染が同様のベラルーシの集落からの証拠に基づいて、被ばく経路が吸入のみだった人達では最大で10%だと推計された(Gavrilin他 2004)。短期寿命核種である放射性ヨウ素と放射性テルルの被ばく線量全体への寄与が小さくても、甲状腺癌誘発における短期寿命核種の影響がI131より大きい可能性があるという疑いがあるために、その寄与を推計するのは重要である(NCRP 1985)。

チェルノブイリ原子力発電所から居住集落への距離、そして事故後当初の日々の放射能雲のパターンが、短期寿命核種の放射性ヨウ素と放射性テルルからの甲状腺被ばく線量の評価に使われた。地域を放射性ヨウ素フォールアウトの動態によりグループ分けするのには、Gavrilin他(2004)は、I131フォールアウトの毎日の測定値(Makhonko他 1996)、Cs137土壌沈着濃度、そして降水情報を用いた。ロシア国土の短期寿命核種の推計被ばく線量による分類も、同様のアプローチが取られた。

短期寿命核種の取り込みによる甲状腺内部被ばく線量とI131の取り込みによる甲状腺内部被ばく線量の比率が、被ばく経路(例:吸入、牛乳と葉野菜の摂取)それぞれにつき、年齢依存性と地域に基づいて推計された。表3に、事故後最初の2週間の間に行動を変えなかった調査対象者における比率が示されている。居住地や食生活を変えたり、事故後間もなく安定ヨウ素剤を摂取した調査対象者においては、個人インタビューからの情報が甲状腺被ばく線量再構築に考慮された。



表4は、様々な被ばくルートによって再構築された、調査対象者の甲状腺被ばく線量を表す。ベラルーシとロシアの調査対象者の間では甲状腺被ばく線量に大きな差があった。ベラルーシでの平均被ばく線量の0.37Gyは、ロシアの平均被ばく線量の0.034Gyの10倍以上だった。ロシアでは被ばく線量の96%が、ベラルーシの平均推定被ばく線量である0.37Gy以下だった。再構築された甲状腺被ばく線量の最大値は、ベラルーシの調査対象者で10.2Gy、ロシアの調査対象者で5.3Gyだった。甲状腺被ばくの主な被ばくルートは、牛乳の摂取によるI131の取り込みだった。しかし、ベラルーシの調査対象者の一部では、葉野菜の摂取が4.9Gyもの甲状腺被ばく線量に寄与した。短期寿命核種のヨウ素とテルル同位体による推計被ばく線量は、最大が0.53Gyであり、ベラルーシでの平均被ばく線量は1.7mGyと、ロシアでの平均被ばく線量である0.14mGyのほぼ10倍だった。外部被ばくによる個人甲状腺被ばく線量推計値は0.1Gy以下で、セシウムの摂取による内部被ばくによる推計値は0.05Gy以下だった。長期寿命核種による被ばく線量は、ベラルーシではロシアでの2倍だった。





表5は、様々な被ばく経路の、甲状腺被ばく線量全体への寄与を示す。表5から分かるように、牛乳の摂取によるI131の取り込みが主な甲状腺被ばく経路で、甲状腺被ばく線量全体への寄与の平均は、ベラルーシで90%、ロシアで74%だった。ロシアでの寄与が小さいのは、ロシアでの牛乳摂取量がベラルーシと比較して少ない(平均値は一日にロシアは370mL対ベラルーシは470mL)のと、ロシアの調査対象者で葉野菜の摂取量がベラルーシよりも多かった(一日にロシアは20グラム対ベラルーシは0グラム)からで説明がつくかもしれない。牛乳摂取量の違いは、ベラルーシの調査対象者の約70%が事故当時に5歳以下で、牛乳と乳製品が食生活の主な部分を占めていたということに関連している。それと比べると、ロシアの調査対象者で事故当時に5歳以下だったのは30%だけだった。さらに、ロシアではもっと後の時期まで家畜が放牧されなかった。調査対象者全員では、I131の取り込み以外の被ばく経路による甲状腺被ばく線量全体への寄与の平均は、短期寿命核種の放射性ヨウ素と放射性テルルの取り込みからは0.5%、外部被ばくからは1.1%、セシウム同位体の摂取からは0.5%だった。




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上記の論文内で言及されているBalonov他 2003年の論文はこれ。

Contributions of short-lived radioiodines to thyroid doses received by evacuees from the Chernobyl area estimated using early in vivo activity meaurements
初期の生体内測定値を用いて推定された、チェルノブイリ地域からの避難者が受けた甲状腺被ばく量への短期寿命核種の寄与
(2003年英語論文アブストラクト)

アブストラクト和訳
チェルノブイリ原子力発電所4号炉の爆発の1日半後にプリチャピから避難した65人において、1986年4月30日からロシアのサンクトペテルブルグで、 一連の生体内ガンマスペクトル測定が行なわれた。この歴史的なスペクトルとインタビューが最近処理され、結果が甲状腺被ばく線量推計に使われた。甲状腺におけるI131と肺におけるTe132の量は簡単に求められた。甲状腺におけるI132とI133の量を推定するために、洗練されたスペクトル処 理方法が開発された。甲状腺の測定データによると、プリチャピ住民が吸入したI133/I131の平均比率は、(事故当時で)2.0だった。I133の吸入による甲状腺被ばく線量とI131の吸入による甲状腺被ばく線量の平均比率は0.3で、チェルノブイリ事故の展開に基づいた線量推計の正確さを 確証することになる。甲状腺におけるI132の量と肺におけるTe132の平均比率は、人体での測定データから0.2と評価されたが、これは、これらの放射性核種の代謝の特性とほどほどに一致している。肺に蓄積したTe132から由来したI132による甲状腺被ばく線量とI131による甲状腺被ばく量の平均比率は、ヨウ化カリウム剤を摂取しなかったプリチャピ住民では0.13 ± 0.02で、摂取した住民では0.9 ± 0.1だった。故に、プリチャピ住民の全甲状腺被ばく線量への短期寿命核種による寄与は、安定ヨウ素剤で防御しなかった住民では平均して30%で、4月26−27日にヨウ化カリウムを摂取した住民では約50%であり、これは、甲状腺の健康影響の評価において考慮されるべきである。

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これもちょっと興味深かった。(アブストラクトのみ)
Development of dose-equivalent rate given to the thyroid gland after instantaneous inhalation of tellurium-132 
http://journals.lww.com/health-physics/Abstract/1966/10000/Evolution_Du_Debit_D_Equivalent_De_Dose_Delivree_A.2.aspx

1966年のフランス語論文の英語アブストラクト和訳 
吸入されたTe132から由来して甲状腺に到達するI132の線量は、1μCi(37,000Bq)のTe132につき、吸入後13時間で、毎時4x10のマイナス5乗レム(0.4μSv/h)の最大値に達する。(甲状腺におけるI132の)蓄積量は、1μCi(37,000Bq)のTe132につき0.25レム(2.5mSv)に達し、その半分は最初の60時間で蓄積する。

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福島原発事故によるテルル132の甲状腺被ばく線量への寄与は、何なのだろうか?

米国エネルギー省とハンフォード諮問委員会は、ハンフォード地下水計画についての意見が異なる


ハンフォードでの地下水汚染対策について興味深い英文記事があったので、和訳した。(背景に関する訳者の説明が少し加わっている。)
2013年7月29日付けの元記事
DOE, advisory board differ on Hanford groundwater plan 
 

画像はハンフォードの「300」エリアの2013年航空画像


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米国エネルギー省とハンフォード諮問委員会は、ハンフォード地下水計画についての意見が異なる(2013年7月29日) 

第二次世界大戦と冷戦時代にプルトニウム製造が行なわれたハンフォードの”300エーカー”の除染計画のほとんどは、ハンフォードの普通の除染法が適用されている。これは、汚染された土壌や廃棄所を掘り起こし、放射性廃棄物に化学的処置を施して、ハンフォード中心にある低汚染廃棄物用の埋立処理場に埋めることである。しかし、コロンビア川の傍の、125エーカー以上に渡る、水道水基準以上のウランで汚染された地下水の除染は、論争の的となるかもしれない。

”300エーカー”は、米国核兵器プログラムのためにプルトニウムを製造したハンフォードの、原子炉の燃料にするためにウランが加工された場所であり、放射化されたウラン燃料から化学的にプルトニウムを抽出する過程をテストするというような研究が行われた場所でもある。

汚染水を土壌に捨てるために使われたトレンチは1990年代に除去され、その後は地下水内のウランのレベルは減少した。ハンフォード側は、既に実行されたように、ウラン汚染された土壌が15フィート(4.5m)掘り起こされたら、地下水汚染は徐々に消えると思った。

しかし、地下水の近くの、汚染があまりひどくない土壌が常に地下水を再汚染していることがわかった。川の水位の上下と共に地下水のレベルが変化し、汚染された土壌と周期的に接触していたのである。

この場合に使用されるのは、ウラン炭酸塩と結合して、真っ黄色でポロポロした燐灰ウラン石を作るリン酸塩である。燐灰ウラン石は安定鉱物であり、なかなか水に溶けず、地下水でなく土壌内に留まる。

リン酸塩を土壌に加えるには、2つの方法が取られる。まず、表面土の上にかけて浸透させる。そして、土壌が周期的に地下水に浸ってしまうような場所での汚染に届くように、地下水に到達していない井戸に注入するのである。

米国エネルギー省の水理地質学者によると、地下水を汚染から保護し、ウランが規制値を下回るまで何十年も待つためには、この方法は100%効果的でなくてもいいと言う。米国エネルギー省によると、現在、年間330ポンド(約150kg)のウランがハンフォード300地区からコロンビア川に放出されている。しかし、対岸の灌漑排水口3ヶ所からは、肥料由来のウランや土壌内に自然に存在するウランが年間3500ポンド(1575kg)放出されており、ヤカマ川から(コロンビア川へ)は、年間8800ポンド(約4000kg)が寄与される。

米国エネルギー省は、帯水層の復元を妥当な年数で行なうことを義務づけている連邦スーパーファンド法に従うために、コロンビア川のハンフォード側で、ウラン汚染された地下水の除染をしている。

米国エネルギー省はこの提案法を300地区で試してみたが、結果は最適とは言えなかった。ごく最近、リン酸塩を地面に撒いて浸透させようとしたが、結果は場所によって異なった。ハンフォード諮問委員会は、この方法の効果を評価するためのフィールドテストをを推奨している。

米国エネルギー省は、ウラン汚染された地下水問題を20年以上研究しているが、他に良い方法がない。EPA(米国環境保護局)も、土壌にリン酸塩を加えることは技術的に最も優れていると同意している。土壌内のウランはほとんど除去されており、この計画は、残留して地下水に漏れ続けている少量のウランを処理するものであると、EPA科学者は述べている。一般市民は、今夜(7月29日)のリッチランドでの公聴会で意見を述べる事ができる。公聴会は、7月31日にシアトル、8月8日にフッドリバーでも行なわれる。 (完)

2011年ウクライナ政府報告書(抜粋和訳)6:チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響②−−心血管疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患、血液疾患


2011年ウクライナ政府報告書


ウクライナ政府がチェルノブイリ事故の25年後に出した報告書の英訳版より、事故処理作業員や住民とその子供達の健康状態に関する部分から抜粋和訳したものを、下記のように6部に分けて掲載する。また、他のサイトで和訳がされている部分もあるが、英訳版の原文で多く見られる不明確な箇所がそのまま和訳されていた。ここでは、医学的に意味が通るように意訳をした。

1. 避難当時に子供だった人達の健康状態 立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向 2. 甲状腺疾患 小児における甲状腺の状態 ウクライナの小児における甲状腺癌 3. 汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査 ●確率的影響 ●非癌疾患 ●非癌死亡率 4. 被ばくによる初期と長期の影響  ●急性放射線症候群  ●放射線白内障とその他の眼疾患  ●免疫系への影響 5. チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響  ●神経精神的影響 6. ●心血管疾患  ●呼吸器系疾患  ●消化器系疾患  ●血液疾患




*****
6.チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響②
  ●心血管疾患
  ●呼吸器系疾患
  ●消化器系疾患
  ●血液疾患


心血管疾患

チェルノブイリ原子力発電所での、最大規模の原子力事故によって被害を受けた人達に最も影響を与えたのが心血管疾患であると言うのは、世界的に認識されている。主な研究分野のひとつは、放射線被ばく量と心血管疾患の病理発生、臨床所見、そして罹患率と死亡率との関係性である。心臓病学の科学的登録によると、18,669人の事故処理作業員においては、心血管疾患の中で高血圧症と冠動脈系心疾患が主要だった。高血圧症と冠動脈系心疾患は、入院理由の構成の中での割合が4倍に増加した(図3.83)。この中で最も数が多かったのは、1986年の事故処理作業員だった。



亡くなった事故処理作業員988人の病理解剖調査の分析によると、冠動脈系心疾患(CHD)を伴う本態性高血圧症(EHは、癌死総計よりも高い死亡率を示した(図3.84)。





呼吸器系疾患

ウクライナ医学アカデミーのウクライナ国立放射線医学研究所の外来放射線クリニック登録の、長期に渡る(1996年から2009年) 呼吸器科調査の結果、16,133人の1986−1987年の事故処理作業員では、呼吸器系疾患に著しい一定の増加がみられた。

1986−1987年の事故処理作業員7,665人は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患い、被ばく量が250 mSvであったが、慢性閉塞性肺疾患および慢性気管支炎と放射線被ばくとの予測される相対リスクには、線量依存性があった(図3.85)。



事故処理作業員における慢性閉塞性肺疾患の経過は、Tリンパ球の再分配による気管支粘膜の炎症反応の欠如のために、気管支粘膜の進行的な変形が起こり、肺と気管支粘膜での線維性変化が迅速に発達し、増悪が減少し、気管支粘液の分泌障害が起こることに特徴付けられる事故処理作業員における慢性閉塞性肺疾患は多臓器疾患の一部分であり、本質的には、統合的なホメオスタシス(恒常性)システムにおける乱れによって起こる。

事故処理作業員の気管支内膜表皮における再生不良性変化、特に、細胞形成層の明らかな病理と細胞の表現型における変化は、このコホートにおける気管支内腫瘍の発達のリスクが高いことを示唆する。慢性閉塞性肺疾患では、EGFRとHER2の発現が正常パターンを示す一方、Ki-67の発現が増える傾向がみられ、Ctk陽性、Vim陽性とBER-EP4陽性の細胞のレベルが低い。肺癌では、Ki-67陽性とHER2陽性の上皮細胞の発現が増え、EGFR陽性、Ctk陽性、Vim陽性、BER-EP4陽性、CD25陽性とHLA-DR陽性の細胞の数が少ない。

消化器系疾患

消化器系疾患は、チェルノブイリ事故の被災者における非癌疾患の2〜3番目に位置する。チェルノブイリ事故処理作業員の罹患率、就業不能と死亡率のコホート研究では、健康状態の悪化が持続しているのが示されている。事故から24年後には、消化器系疾患は非癌疾患の分類の1位(31.1%)、障害指数では3位(10.3%)を占めた。 消化器系は、チェルノブイリ事故の場合、放射線と非放射線の要因による損傷の主な対象となる組織である。事故処理作業員の消化器系の追跡調査によると、胃と十二指腸のびらん性・潰瘍性の病変と肝臓疾患が最も多かった。

臨床疫学登録データによると、事故後の事故処理作業員における胃と十二指腸のびらん性・潰瘍性疾患は、1993年から1994年の期間の119.1‰(パーミル)から2007年から2009年の期間の133.1‰に増加した。この増加は、公式統計の68.3‰から96.6‰への増加よりも大きかった(図3.86)。




「ケースコントロール」疫学調査によると、びらん性・潰瘍性疾患のリスクは、吸収線量が25 cGy(訳者注:0.25 Gyまたは250 mGy)以上の幅広い年齢層(20〜59歳)での事故処理作業員で高かった(オッズ比=4.67、信頼区間2.84−7.71)。


電離性放射線とチェルノブイリ事故による他のマイナス要因は、どの年齢の事故処理作業員においても、胃粘膜の全構成要素の成り立ちに影響を与える。
こういった変化は、非定型の臨床経過を持つ病理発生を誘発し、次のような特徴がある。  ●自律神経無力症候群の優勢  ●ヘリコバクターピロリ菌との関連  ●分泌と自律神経の調整の変化  ●併発症との合併
コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とガストリンのベースライン濃度は、25 cGy(250 mGy)以上の吸収線量と直接的な関係にあった。これは、胃・十二指腸エリアの局部的自己制御の損傷とそれに伴うガストリンメカニズムによる酸形成の優勢を意味する。
事故後の晩発期(2004−2009年)には、胃と十二指腸のびらん性・潰瘍性疾患を持つ事故処理作業員において、顕著な萎縮変化が胃にみられ、低酸性や無酸性の状態の割合を高くしていた。
 ●ガストリンと胃液酸度の低下は、25 cGy(250 mGy)位から、線量が増すにつれて増加した。
 ●ガストリンと胃液酸度の最低値は、50.0−99.9 cGy(500−999 mGy)の被ばく線量でみられた。
 ●人格には、不安増加、精神的および感情的ストレスの存在と、不安解消の神経心理学的メカニズムの欠如などの変化が見られた。
慢性肝炎と肝硬変の診断症例は、事故後20年目を過ぎてから顕著に増加している。1992年から2009年の間には、臨床疫学登録の慢性肝炎患者2,881人のうち、70人に肝硬変がみつかった。慢性びまん性肝疾患の分類で最も多かったのは、非アルコール性脂肪性肝疾患(50.0%)と非アルコール性脂肪性肝炎(36.6%)だった。肝機能の変化は、放射線被ばく量が多かった事故処理作業員の間で、より顕著だった。吸収放射線量と血清中のγグルタミン酸転移酵素(GTTP)(r=0.6, p<0.02)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)(r=0.39, p<0.02)と血糖値(r=0.5, p<0.03)の活性値には直接的相関性がみられた(図3.87)。




事故処理作業員の被ばく線量に基づいた肝機能の分析結果の生物化学的パラメーターによると、5 cGy(50 mSv)以下の吸収線量と比べて、吸収線量が50 cGy(500 mSv)以上の事故処理作業員において、 アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)(p<0.001)とアラニンアミノ基転移酵素(ALT)の著しい増加とビリルビン(p<0.05)とβリポたんぱく(p<0.001)の減少がみられた。
非アルコール性脂肪性肝炎は普通は良性の経過が持続可能であると認識されているが、事故処理作業員においては進行性の臨床経過がみられる。事故処理作業員における脂肪性肝炎の長期かつ開存性のある臨床像は、肝線維症とその最終ステージである肝硬変へ病変する可能性の増加に繋がる。

このような消化器系疾患の病理発生の特徴を考慮した上で、チェルノブイリ事故処理作業員における消化器系疾患の治療法が確立された。


血液学的影響

事故処理作業員の造血系の追跡調査の結果から次のようなことがわかった(図3.88)

事故後初期の時期(1986年から1990年)
 ●25%  白血球減少症(末梢血内での白血球数の減少)
 ●12%  白血球増加症
 ●9.5% 赤血球とヘモグロビンの増加
 ●9%       血小板増加症
 ●14.5%  リンパ球増加症
 ●10.5%  単球増加症

事故後5−10年の時期(1991-2000)
 ●19.7%  白血球減少症
 ●24%     白血球増加症
 ●7.6%    血小板減少症
 ●2.4%    血小板増加症
 ●15%   汎血球減少症

2009年
白血球減少症、血小板減少症と貧血の数は安定しており、リンパ球増加症がやや増えていた。



          (訳者注:各疾患の3本の棒グラフは下記の時期を意味する。
            ●左の棒グラフは事故後初期の時期−−1986年から1990年
            ●真ん中の棒グラフは事故後5年後から10年後
            ●右の棒グラフは2009年)

研究期間全体を通して、量的指標が比較的正常化しても、質的な損傷が造血細胞内の核と細胞質の不規則さとして見られたが、これは低分葉好中球、顆粒球とリンパ球の細胞質の空洞化、細胞質突出と中毒性顆粒などであった(図3.89)。



巨核球では、「老化した」細胞の増加、血小板の巨大化、多型性顆粒がみられ、中には、血小板凝集がみられるものもあり、大小様々な大きさの集団もあった。(図3.90−3.91)。





結論として、放射線被ばくだけでなく、チェルノブイリ事故に関連した複合要因全体が国民の健康に影響を与えたため、その影響を打ち消すための付加的な健康対策が必要となる。

 



2011年ウクライナ政府報告書(抜粋和訳)5:チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響① 神経精神的影響


2011年ウクライナ政府報告書
英文 https://docs.google.com/file/d/0B9SfbxMt2FYxZmdvWVNtMFkxXzQ/edit
原文 http://www.chnpp.gov.ua/images/pdf/25_chornobyl_ua.pdf

ウクライナ政府が、チェルノブイリ事故の25年後に出した報告書の英訳版より、事故処理作業員や住民とその子供達の健康状態に関する部分から抜粋和訳したものを、下記のように6部に分けて掲載する。また、他のサイトで和訳がされている部分もあるが、英訳版の原文で多く見られる不明確な箇所がそのまま和訳されていた。ここでは、医学的に意味が通るように意訳をした。

1. 避難当時に子供だった人達の健康状態
立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向
2. 甲状腺疾患 
 小児における甲状腺の状態
ウクライナの小児における甲状腺癌
3.  汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査   ●確率的影響
 非癌疾患
 非癌死亡率
4. 被ばくによる初期と長期の影響
 ●急性放射線症
 ●放射線白内障とその他の眼疾患
 ●免疫系への影響
5. チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響
●神経精神的影響
6. ●心血管疾患
●呼吸器系疾患
●消化器系疾患
●血液疾患




*****
5. チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響①


神経精神的影響


チェルノブイリ事故の長期の神経精神的結果は世界で認識されてはいるが、原因はまだ確定されていない。図3.75には、最近明らかになった、ごく微量の線量の被ばくによる中枢神経への影響の病理発生に関する多くの新しいデータが図式的に描写されている。これらは、成人脳の海馬における神経形成の抑制、遺伝子発現プロファイルの変化、神経炎症反応、神経シグナルの異常、神経細胞のアポトーシス、二次病巣による細胞死と損傷、その他を含む。これらの障害は、以前から良く知られている”グリア細胞−血管結合”と共に、脳の放射線感受性の機序の説明になる。(訳者注:”血管−グリア細胞結合”とは、実質、”血管脳関門”を意味する。)




現在分かっている、放射線の脳への影響の線量依存性は表3.39にまとめられている。




チェルノブイリ事故による胎内被ばく後にみられた認知障害と神経生理学的障害は、次のような被ばく線量で起こった。

 ●妊娠8週目以降:胎児−20 mSv以上、胎児の甲状腺−300 mSv以上

 ●妊娠16−25週目:胎児−10 mSv以上、胎児の甲状腺−200 mSv以上


子供時代の放射線被ばくは、成人期での認知低下と、もっと後の時期での統合失調症を含む精神疾患と関連づけられており、これは被ばく線量に依存する。子供時代の脳への被ばく線量が0.1−1.3 Gyだった場合には、放射線による脳損傷が晩発期にみられた。胎内被ばくを受けたり、生後1年間の間に被ばくした小児においては、様々な神経精神的疾患のリスクが増加するため、積極的なモニタリングが必要である。

成人における放射線による中枢神経への影響は、0.15 Svから0.25 Sv以上の線量で見られた。
 ●0.3 Sv以上では、線量に依存した、神経精神学的、神経生理学的、神経心理学的、および神経画像的な偏差がみられた。
 ●1.0 Sv以上では、神経生理学的および神経画像的なマーカーがみられた。
放射線被ばく後の脳損傷は、主に優勢大脳半球(訳者注:右利きの人なら左大脳半球)の前頭葉−側頭葉部に局所化され、白質と灰白質の両方に影響を及ぼしていた。

0.3-1.0 Sv以上の放射線被ばくの後に中枢神経で損傷を受けたのは、次のような構造や機能であった。
 ●前頭葉と側頭葉の萎縮
 ●特に優勢大脳半球における、大脳皮質下の構造と伝達経路の変化

成人期における放射線被ばくは、次のようなことのリスク要因となる。
 ●神経変性の疾病素質としての慢性疲労症候群
 ●認知欠損やその他の神経精神疾患
 ●中枢神経の老化の促進
 ●新タイプの統合失調症

公式登録内の精神障害に関する情報は実際の10分の1ほどに過小評価されているが、この理由は、調査が消極的であるのと、精神障害を持つ患者が受診を躊躇するためである。ごく最近に公表された、国際的な精神学的問診(Comosite International Diagnostic Interview、WHO-CIDI)を用い、エビデンスに基づいて実行された事故処理作業員の精神的疫学調査では、「健康な事故処理作業員の効果」(精神的に健康な人達が事故処理作業員として選択された)により、事故処理作業員の不安症とアルコール過剰摂取の事故前の罹患率は、対照群よりもはるかに小さかった(表3.40)。(訳者注:事故処理作業員には、元々、精神的に健康な人達が選ばれていたということ。)



事故後に、事故処理作業員におけるうつ病(18.0%、対照群13.1%)と自殺願望(9.2%、対照群4.1%)の罹患率が著しく増加したことが発見された。しかし、この傾向は、アルコール乱用と間欠性爆発性障害では見られなかった。問診が実施された前年には、事故処理作業員でのうつ病(14.9%、対照群7.1%)、PTSD心的外傷後ストレス障害(4.1%、対照群1.0%)と頭痛(69.2%、対照群12.4%)の罹患率が増加した(図3.76、3.77)

注:1986年当時の年齢に補正した結果、事故処理作業員と対照群で違いがみられたのは、不安症(調整オッズ比0.3、95%信頼区間0.1−0.9 p=0.03)とアルコール乱用(調整オッズ比0.6、95%信頼区間0.1−0.9 p=0.03)のみだった。




うつ病とPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹患した事故処理作業員は、対照群で同じ疾患を持つ患者よりも、仕事を休む日数が多かった。事故の影響の度合いは、身体的症状とPTSD心的外傷後ストレス障害)の重度と関連していた。この結果から、事故処理作業員におけるチェルノブイリ事故による精神衛生への長期的悪影響が明らかになった。

ウクライナ国立放射線医学研究所の臨床疫学登録のデータの分析によると、放射線リスクが0.25−0.5 Sv以上の事故処理作業員では、精神障害(器質性、うつ病など)と脳血管疾患の頻度が増加していた。

「自律神経血管失調症」という診断名が、放射線被ばくの影響を受けているという「兆候」として過剰に使われていたと言う間違った認識が広まっているが、それとは対照的に、この診断名はチェルノブイリ事故後初期数年の間に、臨床疫学登録システムに登録していた事故処理作業員の4分の1ほどで使われただけだった。図3.78でみられるように、自律神経血管失調症の症例数は事故後の年月を経てかなり減少し、現在では臨床疫学登録システムに登録している事故処理作業員5%ほどでみられるにすぎない。



事故後徐々に、事故処理作業員においての脳血管疾患(特に慢性脳虚血)、脳動脈硬化症、そして程度は少ないが、高血圧性脳障害の罹患率が顕著に増加した。

臨床疫学登録に登録されている事故処理作業員と立入禁止区域からの避難者のコホートからの、ランダムなサンプルにおいての精神衛生の現在(2008−2010年)の評価では、チェルノブイリ事故による長期的な精神学的影響が確認された。事故処理作業員と避難者においては、一般的な精神障害と行動障害、血管性認知症、アルコール使用による精神障害と行動障害、気分変調症とPTSD(心的外傷後ストレス障害)が、より多く見られた。事故処理作業員においては、器質的うつ病性障害、器質的不安障害、器質的感情的不安定(無力)症と器質的人格障害が増加した。

チェルノブイリ事故による神経精神学的影響には、放射線および非放射線(特にストレス)の事故由来の複合要因および社会的変化と従来のリスク要因など、病因に多様性がみられる。また一方では、1986−1987年の事故処理作業員においては、被ばく線量に関係した増加が、脳血管疾患、特に脳動脈硬化症と高血圧性脳症にみられた(図3.79)。




1986−1987年の事故処理作業員では、線量に依存しためまいと前庭障害を含む、他の神経精神学的疾患の増加も立証された。

ウクライナ国立登録によると、1986−1987年の事故処理作業員では、神経系と感覚器官の疾患、自律神経血管失調症、本態性高血圧症と脳血管疾患の線量と関連した増加もまた見られた(図3.80)。




ウクライナ国立登録と臨床疫学登録のデータにより、1986−1987年の事故処理作業員における神経精神疾患の1 Gyにおける過剰相対リスク(ERR)が確証された(図3.81)。



 
アルコール中毒症候群は、1986−1987年の事故処理作業員の26.8%(対照群15.6%、p<0.001)が罹患しており、17.2%はアルコールを乱用している。すなわち、アルコール使用による精神障害と行動障害は、事故処理作業員の44%で見られたという事である。チェルノブイリ事故の複合要因への曝露と、事故処理作業員が既に罹患している精神障害から二次的に起こるアルコール依存症候群の発現との結び付きがはっきりとしたと言える。

胎内被ばくを受けた子供では、神経系疾患と精神障害が対照群より多く見つかった。
 ●言語性IQの低下と知能の不調和の頻度増加のため、全体的なIQが被ばくをしていない子供と比較して低下した。
 ●この不調和が25点を超えた場合では、胎児の被ばく量と相関関係があった。
 ●避難した母親達とキエフ在住の母親達の間では、言語性IQには違いがみられなかった。
 ●しかし、避難した母親達は、キエフ在住の母親達と比べてかなり多くのストレスを経験し、下記の障害や症状がより多くみられた。
   ○うつ病性障害
   ○PTSD心的外傷後ストレス障害
   ○身体表現性障害
   ○不安症
   ○不眠症
   ○社会的機能障害

チェルノブイリ事故により環境に放出された放射性ヨウ素への胎内被ばく量が比較的少量であっても、中枢神経発達に最も重要な時期である妊娠8−15週目においてのみならず、妊娠後期の子宮内の胎児の甲状腺被ばく量が最も高い時期においても、脳損傷が起こり得る(図3.82)。




信頼できる個人被ばく線量データに基づいた、綿密な神経精神学的研究によると、胎内被ばく後の脳損傷は、優勢大脳半球(ほとんどの人にとっては左大脳半球)にみられた。

胎内被ばくを受けた人達では、重篤な精神遅滞は過剰にみられなかったが、下記の事象が頻繁にみられた。母親における精神衛生障害、ストレス、そして胎内被ばくが、従来のリスク要因と合わせてこれらの影響に貢献した。  ●神経精神学的障害  ●脳の左大脳半球の破壊を示す神経学的兆候  ●総合および言語性のIQ低下  ●言語性IQの低下による知性の発達の不調和  ●脳波(EEG)パターンの乱れ    ○脳の生物電気学的活動のδ波(デルタ波)と β波(ベータ波)の左前頭葉-側頭葉付近への過剰な側方化とθ波(シータ波)とα波(アルファ波)の減少  ●半球間での視覚情報処理の逆転

チェルノブイリ事故の主な神経精神学的教訓は、NATO(北大西洋条約機構)平和と安全保障のための科学のフレームワークで次のように定義されている。
 ●否定的な心理的影響(放射線に対しての不安とパニック反応)と心理身体的障害
 ●「パニックによる疾患への逃走」、就業不能と社会的無活動、そして移住における社会心理学的および放射能関連問題による”迫害」
 ●「放射線被ばく後のPTSD」の次のような特徴:将来に関する心気的固執(発癌の可能性、子供の先天性異常やその他に関する不安)
 ●発達しつつある脳への影響、成人における長期的な精神衛生の妨害
 ●放射線の中枢神経への影響の可能性
 ●自殺

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...